学園映画のお決まり!
体育館が示すもの
『ヘザース ベロニカの熱い日』(88)はウィノナ・ライダー、クリスチャン・スレーター主演でオハイオ州の高校を舞台にしたダーク青春学園ムービー。高校には教室がある、ロッカーがある、駐車場がある、そして体育館がある。ということで、今回は『ヘザース』のラストシーンからみる、学園ムービーにおいて体育館は何を表すか?を考えてみたい。
体育館は体育の授業で使う以外の用途がある。学園ムービーにおいては後者の方が多いだろうか。例えば、キルスティン・ダンスト主演、ソフィア・コッポラ監督『ヴァージン・スーサイズ』やドリュー・バリモアの製作プロダクション、フラワーフィルムズ第1作目『25年目のキス』、ダークな風刺学園もの『ハード・キャンディ』では高校生活の一大イベントであるプロムのシーンで使われている。プロムに似て非なるホームカミングの会場として文化系青春ムービー『ウォールフラワー』の名ダンスシーンも体育館だった。『ナポレオン・ダイナマイト』での思いのほか真剣なダンスシーンもそうだった。アメリカだけじゃない、アイルランドの『シング・ストリート 未来へのうた』もマレーシアの『タレンタイム』も、日本の『リンダリンダリンダ』だって、体育館だった。青春学園ムービーは、自分の内側にあるものを外側に出したい!という情熱が描かれ自己を表現しようとすることで、恥ずかしいこともあるけど、私たちにこんな人間もいるし(いたし)、こんな方法もあるよと教えてくれているのだと思う。
そんな学園ムービーへのオマージュいっぱいの『小悪魔はなぜモテる?!』では、最初とクライマックスのシーンで体育館が使われている。エマ・ストーン演じるオリーブは、最初は観客席に座って男の子を見つめる存在だが、クライマックスでは彼の隣でマイクを持って皆の前で話している。たくさんの学園ムービーの印象的なシーンで使われている体育館だが、やはり気になるのはあの「ひな壇」だ。本作『ヘザース』では「ミス・ダンプ」と呼ばれいじめられているマーサが1人で座っているシーンがある。ちなみに余談だが、SF学園スリラー『パラサイト』を観るとあの階段式観客席は壁側に折りたたんで収納できるらしい(本当に可動式でよかったねという映画で、『ヘザース』の系譜を継ぐ『ザ・クラフト』がお好きな方にオススメ。『ザ・クラフト』では本作で使用された同じ学校でロケ撮影があったそう)。
観客席/ステージという構造や生徒や先生が一堂に集まり視線の集中があるため、体育館では非主体/主体性が表され、学校生活でのヒエラルキーが可視化されているのではないだろうか。それは先の『小悪魔はなぜモテる?!』の体育館でのシーンの変化によくわかるだろう。ドラマ『glee/グリー』なども「負け組」が皆の前に立つというある種の「逆転」があるのだ。だとすれば、『ヘザース』のラストシーンのヴェロニカとJ.D.は体育館の外側(下)にいる。2人は学校内のヒエラルキーという構造から外れようとし、構造そのものを壊そうとしているのだと考えられる。そして、2人は別々の方法によってヒエラルキーを破壊する。ラストシーンのヴェロニカのマーサへの行動は、高校という狭くて長い社会が持つある価値観をぶっ壊す1つの方法をみせてくれたのだと思う。
この映画に描かれる残酷さは現実のものだ。でもヴェロニカの選択も現実的だった。だからこそ、この作品はクラシックになり得たのだと思う。学園ムービーにおいて、体育館は自己表現の情熱を放出する場所である。そのためにヒエラルキーの可視化があるとしたら、それを爆発で終わらせない、ヴェロニカのとった小さい行動が1番カッコいいなと改めて思う。
hanatoma
青春学園ムービーを発端にして映画好きに。大学の卒論は『ローラーガールズ・ダイアリー』でRiot Grrrlを始めとする第3波や第4波フェミニズムに興味があるフェミニスト。