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BARRIER FREE

『シンプル・シモン』DVDをバリアフリー対応に!

2014年の劇場公開では、若者を中心とした幅広い層に圧倒的な支持を得たスウェーデン映画、『シンプル・シモン』のDVDが完成しました。
「トーキョーノーザンライツフェスティバル2012」で出会った『シンプル・シモン』に魅了され、「この映画を一人でも多くの人に届けたい!」という思いから始まった「シンプル・シモン配給プロジェクト」。ポップでキュート、そして何よりハートが暖かくなるこの作品は、配給した私達の予想を超える反響を巻き起こしました。
シモンは愛されている、というのが今の私達の実感です。このシモンの物語をさらに多くの方に観ていただけるよう、DVDをバリアフリー仕様で制作することを決定いたしました。

映像のバリアフリー化とは?

『シンプル・シモン』DVDは「音声ガイド」と「ガイド字幕」付きのバリアフリー仕様になっています。
「音声ガイド」とは、場面、人物の動き、情景、字幕など、視覚的な情報を言葉で補うナレーションのこと。
「ガイド字幕」とは、劇中で聴こえる音を解説する字幕のことです。
このふたつは実際に目や耳が不自由な方が映画・映像を観る際に大変役に立っているものです。

音声ガイドのつくり方

バリアフリー仕様のDVDを作ったもう一つの理由は、シモンとの出会いを通して、こんな世界もあるのだ、ということを広く知っていただきたいと思うからです。
1本の映画に音声ガイドを付ける時は、まず初めにガイド台本を作ります。ガイド台本とは登場人物のセリフや劇中の音に重ならないよう、画面に映っているものを説明していく台本です。といっても画面に映る全てを言葉で説明するのは不可能なので、映画の展開上重要と思われる部分を的確に捉え、簡潔な言葉で表現することが求められます。さらに大切なのは、台本を作る人の思い込みや主観的な解釈が入らないよう、できるだけ客観的に描写していくこと。具体的には形容詞をなるべく使わないなどの心がけが必要になります。たとえば「嬉しそうなシモン」ではなく、「シモンの顔に微笑みが広がる」、「足どりが弾むシモン」というように“目に見えること”を言葉にしていきます。なぜ「嬉しそう」という形容詞を使わないのでしょうか?それは、映画を観る人が個々に感じ取るものだからです。
目を閉じて、または耳をふさいで「観て」みると、映画は視覚や聴覚だけではなく、心を含めた全感覚で受けとめる表現なのだということがわかってきます。 「美しい」と言っても、何を美しいと感じるかは人によって違います。「美しい」という言葉を使わずに「美」を伝えることができる音声ガイドは誰にとっても、映画のハートを伝え得るものに違いありません。

映像をとりまくバリアフリー化の現状

音声ガイドやガイド字幕は、欧米では広く普及していますが、日本ではまだ一般的に知られていません。特に単館系の映画のソフトには経費の関係でほとんど付いていないのが現状です。外国語映画に日本語字幕がついているのが当たり前のように、いつかすべての映画がバリアフリー対応であることが当たり前になってほしい。誰もが観たい映画を好きに選び、共にその映画について語り合える世界は今より楽しさの幅が広がっていることでしょう。 観た人同士で語らいたくなる、観ていない人に勧めたくなる…映画はそうして人が伝え、大切にされることで名作として残っていきます。大切にするということの中には、より良いソフトとして残すという配給側の役割も含まれます。『シンプル・シモン』に「名作」という重々しい言葉は似合わないかもしれませんが、人の心に長く残る作品になってほしいと思っています。

新しい世界との出会い

アスペルガーであるシモンは、自分だけの想像の宇宙(世界)に閉じこもっていました。広い宇宙のはずなのに、彼の宇宙は彼自身によって閉じられた世界でした。
しかしシモンはある出会いによって、自分だけの宇宙(世界)から一歩を踏み出します。いや、引っ張り出されたという方がふさわしいでしょう。人は思わぬ出会いによって新しい世界を知ります。
シモンがそうであったように『シンプル・シモン』のDVDとの出会いが、鑑賞される方にとって、新しい世界との出会いとなることを願っています。

フリッカポイカ 雨宮真由美